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陽菜（ひな）：ねえ、本当に樹は死んだんだよね？
大和（やまと）：何を言ってるんだ？ さっき死んだじゃないか！ 目の前で首を吊っているの見ただろう？
陽菜：本当に死んだのかな？
大和：死んだよ。
陽菜：信じられないよ。だって、私触れてないもん。もしかしたら息があったかもしれないじゃない。首を吊っていたからって、仕方なく海に放り投げるだなんて、信じられないよ。
大和：だって仕方なかったじゃないか。船が沈みそうで、一人分の体重でも減ったら乗客の命が助かるんだ。現に船が沈まずに俺達が生存できているのも、樹を海に放り投げたおかげだぞ。漂流しているこの状態では正しい判断だったと思うぞ。
陽菜：本当の事を言ってよ、大和。
大和：だから本当の事を話しているじゃないか。
陽菜：違うよね？ 大和は、樹を睡眠薬で眠らせて、自分で首を吊ったと見せかけたんだよね？ 海に放り投げる為に。
大和：何を馬鹿なことを……。もし放り投げるのが目的だったら、最初から突き落とせばいいじゃないか。
陽菜：もし意識がある状態で突き落とそうとすれば、力で負けてしまうはずよ。樹は１２０kgある、元相撲取りの医者なんだから。眠らせてから突き落とそうにも一人では運べないから、首を吊ったということにして皆に手伝って貰って放り投げたんだわ。
大和：そんなのもし息があったら、船員達だって気づくはずだろう？
陽菜：医者であるあなたの言葉を皆信じるわ。死んでいると言われれば鵜呑みにしてしまうでしょう。
大和：証拠はあるのか？
陽菜：大和は治療用の睡眠薬を管理しているはずでしょう？ 食事に混ぜることだってできるはずよ。私、皆にこの事を伝えるわ。大和が犯人なんじゃないかって。
大和：ちょっと待ってくれよ。なんでそんな嘘つくんだ、陽菜？
陽菜：え？
大和：樹が首を吊る前日、陽菜は睡眠薬の箱をいじっていただろう。医務室から出てくる所を見たんだ。
陽菜：な、なによ。たまたまでしょ。
大和：シェフである陽菜が樹の料理に睡眠薬を入れ眠らせ、本当に首を吊って殺害したんだろ。低い位置でも首は吊れるんだ。あの高さなら陽菜でも樹の体を起こせるはずだよ。
陽菜：な、なによ。自分の都合の良い様に……。
大和：確実に樹は死んでたよ。次は俺を放り投げたいのか？ だからそんな嘘つくのか？
陽菜：……だってあなたや樹がいなかったら、元看護師の私が医者になって皆に感謝される。私は、本当は医者になりたかったんだから。せめて船上では夢を叶えたい。
大和：俺はお前がいなかったら、味覚障害でもシェフになれる。せめて船上では夢を叶えたい。
陽菜：ちょっと待って、あ……。
大和：やっと睡眠薬が効いたか。よいしょっと、重い。